2017年4月14日金曜日

「漱石の妻」を見ながらなぜか森鴎外を考えた 舞姫のモデル女性

 昨年、NHKのドラマ「夏目漱石の妻」を見ていて、なぜか漱石と同じ明治の文豪、森鴎外のことを思い出した。そして鴎外の代表作となる「舞姫」のヒロイン、エリスのモデルとなる女性を突き止めた六草(ろくそう)いちかさんの著書「それからのエリス いま明らかになる鴎外『舞姫』の面影」(講談社)のことが気になった。

ドイツで第2次大戦後まで生き延びる

 というのも、その本で一番の驚きは、モデルであるドイツ人女性エリーゼ・ヴィーゲルトが86歳まで生き、第2次大戦後になった死亡するそのいきさつにあるからだ。本書の中でエリーゼは決して恵まれた家庭の出身ではなかったが、留学生の鴎外と下宿近くなどの縁で知り合い、鴎外を追って遠路はるばる日本を訪れしばらく滞在したことを明らかにする。鴎外とは結ばれることはなかったが16年後、ドイツで結婚し静かな人生を送る。

壊滅的打撃のベルリンで老人ホームに入所 社会福祉の充実に驚き

 著者は1947年、彼女がベルリンの老人ホームに入所したことを突き止める。鴎外と知り合って60年ぐらい後のことだ。しかし1947年である。第2次大戦末期の激しい首都攻防戦でベルリンは壊滅的な打撃を受けたと言われている。ソ連、そして米英など連合軍の占領。東京がそうであったように、かなりの混乱に陥っていたことは想像に難くない。だが、そんな時代を生き延びすでに80歳を超えていたエリーゼは、それほど恵まれたとも思えない生活状況にもかかわらず、きちんとホームに収容されたとは。敗戦国でもそうした社会福祉が保たれていたとは驚き以外、何者でもない。

欧州と日本の差、あらためて実感

 戦後、敗戦から立ち直って高度経済成長を果たし先進国の仲間入りをしたのに、希望してもホームに入れないお年寄りがあふれかえる現代ニッポン。同じような敗戦国でもこれだけの差があったのかと半ば唖然としてしまう エリーゼは1953年、この世を去る。最期がどのような状態だったのか知るすべもないが、とても静かな余生だったような気がしてならない。

0 件のコメント:

コメントを投稿